最高裁判所第三小法廷 昭和40年(あ)1027号 決定 1966年9月06日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人松井正道の上告趣意第一点、第二点は、判例違反をいうが、所論引用の大審院判例は、当時所論の如き商慣習が存在した旨の事実判断を示しているにすぎず、その事案における証券の処分行為も質権を設定した場合である等本件第一審判決が第二(1)に判示する事案とは趣を異にするものであるから、結局、右判例は本件に適切なものとはいいがたく、同第三点は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張に帰し、以上すべて刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。(原判決が、第一審判決判示第二(1)の事実につき、有価証券の信用取引において顧客から証券業者に保証金の代用として有価証券を預託する行為は、根担保質権の設定であると解し、この有価証券につき、顧客の同意の範囲外である売却処分をした行為をもって、業務上横領罪にあたるとした判断は正当と認められる。記録によれば、所論森中武の検察官に対する供述調書は、被告人に対する関係で証拠調を経ていないことが認められ、これを判断の資料に供した原判決に法令違反が存することは所論のとおりであるが、右書証に対応する第一審判決判示第二(2)の事実は、右書証を除外しても、被告人の供述調書およびこれを補強するに足りる他の証拠をもって十分認めることができるので、右の違法は判決に影響を及ぼすべきものとはいえない。)
また、記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって、同四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 柏原語六 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎)